クーロン力の大きさ
ファインマン物理学の電磁気の最初のページに、「人体の中の電子が陽子より1パーセント多いとすると、... 反発力は地球全体の”重さ”を持ち上げられるくらい強い。」とあって吃驚仰天したので自分でも計算して確かめてみる*1。
クーロン力の式
F=q₁q₂/4πεr²
は覚えているが、1クーロンというのになじみがなくてよくわからない。1Cは1Aの電流を1秒間流した時に通過する電荷である。まずは少しでも身近なアンペアの感覚をなにかしら掴みたい。電流と電圧、電力の間には次の関係式があった。
1W = 1A×1V
家庭用コンセントは100Vだから、例えば700Wの電子レンジなら7Aの電流が流れているということか。ついでに他の家電の消費電力も見てみよう。
iPod(充電時)
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5W
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ノートパソコン
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50W~120W
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携帯電話(充電時)
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15W
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電子レンジ
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1300W
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オーブントースター
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1200W~1350W
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炊飯器
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350W~1200W
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冷蔵庫
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150W~500W
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アイロン
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1200W~1400W
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洗濯機
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500W~900W
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掃除機
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1000W~1100W
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エアコン
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45W~2000W
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扇風機
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50W~60W
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電気スタンド(蛍光灯)
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20W~24W
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ドライヤー
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600W~1200W
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150W~240W
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多くて1000W台くらい。つまりその辺の家電には0.1~10Aくらい流れているわけである。とにかく、1Aは身近な家電に流れているくらいの量と分かった*2。すなわち、消費電力100Wなら1秒間に1クーロンの量の電荷が導線中を流れているわけである。
電場のクーロン力の式
F=q₁q₂/4πεr² [N]
および
真空の誘電率 = 8.85418782 × 10⁻¹² m⁻³ kg⁻¹ s⁴ A²
によれば、1Cの電荷2つが1m離れておいてあるとき
F = 1/4πε₀ ≃ 1/(4π×9×10⁻¹²) ~ 10¹⁰ N
の力を及ぼしあう。つまり10⁹kg=100万トンの物体(水なら一辺100mの立方体)に地球上で働く重力と同じくらいである*3。
(ちなみに地球の質量 = 5.9742 × 10²⁴ kg)
身近な量におけるクーロンの感覚はわかったので、今度は基本的な物理量から考えてみる。電荷の基本単位と言えば、
電気素量 e = 1.6×10⁻¹⁹ C
今まで考えていた1Cに比べるととてつもなく小さい。が、これでも1mol=6×10²³個あつまれば10万Cとなり、とんでもない電荷量である。
コップ一杯180mLの水の中の電子と陽子を無理やり引きはがして10cm離すことを考えてみる。
180g中の水分子の数 = 180÷18×アボガドロ数 ~ 10×6×10²³ ~ 6×10²⁴ 個
そのうち2/3が水素、1/3が酸素なので、
陽子の数 = 6×10²⁴×2/3 + 6×10²⁴×1/3 × 8 = 6×10²⁴×(10/3) ~ 20×10²⁴ =2×10²⁵個
電荷量 = 2×10²⁵×1.6×10⁻¹⁹ C = 3.2 × 10⁶ C
引力 F ~ 10¹⁰ N × (3.2×10⁶)² × 100 ~ 9×10²⁴ N(100は10cmのぶん)
重さにすると 9 × 10²³ kg ~ 地球の重さ/10 ~ 火星の重さ
つまり、コップ一杯180mLの水の中の電子と陽子を無理やり引きはがして10cm離したときの引力は、火星を地球上に持ってきたときの重さくらいある、と。わかるようなわからないような。地球と太陽の間に働く重力 = 3.5×10²²N の300倍って言った方がわかりやすいかな。
ファインマンに倣って、54kgの人間に含まれる電子と陽子の数も考えてみる。
(人間は大体水と考えて H₂O の分子量18の倍数にした)
54kgの水に含まれる水分子の数 = 54×1000÷18×アボガドロ数 ~ 3000×6×10²³ ~ 2×10²⁷ 個
そのうち2/3が水素、1/3が酸素なので、
陽子の数 = 2×10²⁷×2/3 + 2×10²⁷×1/3 × 8 = 2×10²⁷×(10/3) ~ 7×10²⁷ 個
電子の数も同じく7×10²⁷ 個。電子が陽子よりも1%多かったとすると、
電荷 ~ 7×10²⁵個×1.6×10⁻¹⁹C/個 = 10.2×10⁶ C ~ 10⁷ C
10⁷ Cの電荷を持った人どうしが腕の長さ~0.5m離れて立つと
F ~ 10¹⁰×(10⁷)²×(0.5)⁻² N = 10¹⁰×10¹⁴×4~4×10²⁴ N
の力が働く。桁が多すぎてさっぱりわからないので、重さで考えてみると、4×10²³ kg の物体に地球上で働く重力と同じくらい。だいぶ適当に計算したが、地球の質量 = 5.9742 × 10²⁴ kg の1/10くらいになった。オーダーとしては悪くない。
原子の中の陽子と電子はどのくらいの力で引き付けあっているのだろうか?
水素原子で考えると、原子の大きさ~10⁻¹⁰mなので
F ~ 10¹⁰ N × (1.6×10⁻¹⁹)² × (10¹⁰)² = 2.56×10⁻⁸ N
う~ん、原子の話をニュートンの単位でしてもさっぱりわからない。
ポテンシャルをeVで考えてみるとどうだろう。
Φ ~ 10¹⁰ J × (1.6×10⁻¹⁹)² × 10¹⁰ = 10²⁰ × 1.6×10⁻¹⁹ eV = 16eV
おおっ!がばがば計算でも13.6eVに近い値が出た!量子力学でクーロンポテンシャルから原子半径を計算してることを考えればある意味当たり前だけど嬉しい。
というか、1/4πε₀ の値なんかどこでも覚えていないと思っていたが、13.6eVとつながりがあったか...今度誰かに自慢しよう。
では、原子核内の陽子どうしはどのくらいの力で反発しているのだろうか?
上と同様ポテンシャルで考える。原子核の大きさのオーダーが10¹⁵m なので
Φ ~ 10¹⁰ J (1.6×10⁻¹⁹)² × 10¹⁵ ~ 16×10⁵ eV = 1.6MeV
当然ながらさっきの10⁵倍になった。これが原子核はMeVオーダーってこと?!
一応、力Fについても考えるとさっきの(10⁵)²倍するだけで求められて
F ~ 2.56×10² = 256 N
というのも、もし25kgを原子核の大きさに閉じ込めたとすると、密度 ~ 25×10⁴⁵ kg/m³
重力≪クーロン力<強い力 というのは聞いたことがあるが、コップ一杯180mLの水の中の電子と陽子を無理やり引きはがして10cm離したときの引力は地球と太陽の間に働く重力の300倍だと知った後だとよりいっそう力の大きさの関係を感じることができるのではないだろうか。